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カンブリア爆発の謎

書評 science

今世紀に入ったあたりから一般向けの科学書の質が向上しているような気がしていた。
どんな専門分野においても、その領域独特のテクニカル・タームとレトリックが存在し、なじみの薄い一般人は勿論、プロでも専門外であればそれを理解し難い。かつてはそうした用語、言い回しを一般向けに”開く”表現技巧が拙かったのではないかと思う。昨今、サイエンスの最前線に立つ一級の研究者が一般向けに本を書き下ろすことが多くなって、その技術が向上したのではないかと、しばらく前から感じていた。ま、さしたる根拠のない仮説と言われればその通りなのだが。
さて、カンブリア紀初期に始まった進化の大爆発の原因を説明する新説「光スイッチ説」を、その提唱者が解説したのがこの『眼の誕生 --カンブリア紀大進化の謎を解く』だ。

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

やはり上で述べた傾向に則った良書だが、表現は硬くて難解な部類。内容的にはすばらしく、著者の論理の構築力と博識ぶり、構成の巧妙さに感銘を受ける。本書によれば、カンブリア紀に生物が爆発的に進化し多様化した原因は「眼を持った」捕食動物の出現にあるとする。それに対抗するために、様々な動物が形態を多様化させたのだという。詳しくは読んでいただくとして、k_oniisanはこの本からSFの着想を得たのでちょっと記録しておこう。
現代人は眼鏡、コンタクト等の補助器具によって眼の性能の劣化を補うことができる。眼は高くつく器官なので、必要がなければ急速に退行進化する。つまり、現代は眼が高性能でなくても良い時代であるため、気づかないうちに眼の退化が進行している。しかしある限度を超えたら補助器具でも追いつかなくなり、そこで平衡に達するのか、或いはある種の慣性によってそのまま眼が退化し続けて、補助器具では補えないほど性能を劣化させるのか。もし後者であれば、やがて人類は視覚を失い、そのことが原因で絶滅に到るかもしれない。
もっとも、その頃には人工視覚システム(人工眼球とそれを脳に接続するシステム)が完成しているだろうから、だとしたら眼が退化しても深刻な問題とはならない。結局人類は人工視覚システムに適応するかたちで進化して眼を失う。その時代、ヒトが産まれたときには眼窩に眼球はなく、人工視覚システムをそこに埋め込む手術が産婦人科で行われることになっている。
・・・ちょっと気持ち悪いですね。