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ステルス・デザインの方法

『物理数学の直観的方法』という解説書があって、

物理数学の直観的方法

物理数学の直観的方法

この著書は、物理学を習得する上で欠かせないベクトル解析や複素関数などについて、その概念を可視化した良書として評価が高い。理系学生や研究者、技術者の間に深く密かに浸透しているとのことだ。かくいうk_oniisanもかつて、この本を読んでrotやε-δ論法の意味が解ったという経緯がある。
著者の長沼伸一郎は非常に独創的なひとらしく、他にも『無形化世界の力学と戦略』
無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか

無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか

という、ほとんど秘密結社の教典と言っていいくらいの怪書があり、こちらの著作では「知的制海権」を奪取することによってアメリカの覇権を克服しようとする思想が語られている。共感するしないは別として、個人的には現代の奇書としてオススメ度は高い。
その長沼による今回の新刊『ステルス・デザインの方法』
ステルス・デザインの方法―イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技

ステルス・デザインの方法―イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技

もまた風変わりな建築デザインの理論で、本書では、見る者に圧迫感を与えないデザインを持つ建築物についての独創的なアイデアが語られている。この理論が都市計画に応用されれば、景観の面でかなりの効果があるのではないか。
ただしその場合は、景観の観点のみから都市計画を考えるのも不完全なので、交通網や生活環境などについても同時に考慮しなければならないだろう。
例えば今、東京のヒートアイランド化を緩和する手法として、屋上の緑地化、海風の通り道の確保、自然公園の整備など、都市環境科学からのアプローチが盛んに検討されているが、そこに本書によるステルス・デザイン建築の理論を加えれば、ヒートアイランドの緩和に留まらず、生活者にとってストレスの少ない都市をトータルに設計できる都市計画が可能になるはずだ。
目端が利く政治家や官僚には、こうしたことを公共事業として行う方法を考えてもらいたいと思うのは私だけではあるまい。今や認識の後退した旧勢力の利権維持にしかならない巨大土木事業に税金をつぎ込むよりは、都市環境の向上という新しい公共事業へと資金を回した方が、飽和した文明社会に適合するはずなのだから。