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神は妄想である

書評

神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

リチャード・ドーキンスはその著書『利己的な遺伝子』が日本でもベストセラーとなり、よく知られているが、"業界内"では急進的で戦闘的な無神論者としても名高いとは聞いていた。急進的と言っても、「神がないことを知っている」といった水準ではなく、「高い蓋然性でない。ないとの想定の元に生活している」というカテゴリに本書で自らを分類している。
欧米キリスト教圏では、無神論者は信仰を持たないがために倫理感が乏しく、それ故に不正に走りやすく信用できないといった空気が確かに存在し、日本人の感覚からすると非常に違和感を覚えるが、向こうでは日常的な感覚らしい。ドーキンスによれば、アメリカではそんな傾向が強まっており、もはや無神論者はかつての同性愛者のように危険視され、差別されているとのことだ。無信心な日本人が神について論争を吹っかけ、相手をやり込めたところ、翌日からそれまで友好的だった相手が豹変し、放置プレイの憂き目に会った実例くらいなら僕も身近に知っている。
そんな風潮に激しく異議を唱えなければならない内的必然性を、ドーキンスは持ち合わせているのだろう。本書の前半で彼は、神の実在についての示唆、仮説、証明に徹底的に反駁し、それらが全て論理的誤りであることを示していく。人間原理や多宇宙論まで持ち出してくるところが、ちょっと微笑ましいとさえ感じられるが^^ それだけに飽き足らず、後半では無神論者が危険だとする論理がいかに間違っているか、また、宗教がいかに倫理、道徳に寄与しないかをデータや歴史的実例などによって示していく。確かに歴史上、宗教がやらかしてきた犯罪行為は枚挙にいとまがない。
僕も宗教には極めて批判的であるために楽しんで読めたものの、本書が信仰からの解脱を促す処方箋としてどれだけ効果的であるかは、今後の推移に注目といったところか。少々感情的であったり、社会運動的な記述があったりして、それだけで反感を買うかもしれず、また、読みこなすには相応の知識水準が不可欠なのも厳しい点だ。とは言っても逆に、教育水準や社会的ステータスが高い層(<差別的な言いかたになってしまうが)に訴えることが目的であれば、有効な戦略であることは間違いない。政策決定や社会システムの設計に影響力を行使しやすいからだ。いや、当然そうした戦略なのだろう。
最後に、ゲーデルの"神の存在証明"に対する反論も聞きたかったが、それはなかった。無論、ゲーデルの証明を知っている訳ではないのだけど。