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女が男を厳しく選ぶ理由(わけ)

書評

女が男を厳しく選ぶ理由(わけ)

女が男を厳しく選ぶ理由(わけ)

本書は、タイトルから連想されるような恋愛ハウツー本ではなくて、進化心理学の入門書です。
進化心理学とは何かと言えばWikipediaの記事の冒頭を読んでみると 『ヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。』 などとわざと難しく書いてあって、学術書を読みなれてないと意味不明だ。
どういうことかというと、ヒトの身体やその内部の仕組みは進化によって形成されてきたというのが進化論の教えるところだがしかし、心的反応パターンもまた進化によって獲得されたのだと考えることによって、ヒトの心の持つメカニズムを解き明かそうとする学問が進化心理学であるらしい。
進化心理学によって従来の常識を覆す説が登場している。例えば、女性の美の基準は文化によって異なるというのが民俗学文化人類学的常識とされたきたことは誰でも知っているだろう。確かにデブを美人だとする文化は存在したし、アングロサクソン基準の美女に、アジアの古い部族が彼らと同様にセックスアピールを感じる訳ではない。当たり前すぎて殆ど疑問を持たれなかったこの常識に、進化心理学は真っ向から挑戦する。女性の美の基準は存在し、それは進化の過程で遺伝子レベルにすり込まれた人類共通の反応パターンなのだと。なぜかというと要するに、ブロンドでグラマーな女性により魅力を感じた方が子孫が繁栄し易いからだという。それが数百世代に渡って繰り返されて来た結果、そうした女性に魅力を感じない心的形質は淘汰されてしまったと進化心理学は考える。詳細は本書を読んでいただこう。
他にも、売春が世界最古の職業である理由、一妻多夫が事実上存在しない理由、暴力的な犯罪を男ばかりが犯す理由、政治家が不倫をする理由、人が宗教を好む理由等々、ヒトの世俗的な振る舞いから文化的な営みまで、その多くに対して本書が説明を試みている。
読んで感じたことは、フロイトのリビドー論が科学的な装いを纏って現代によみがえったという印象だ。ことセックス絡みのことについては、もう身も蓋もない直截的欲求が全てを決定しているという現実の直視が際立っている。不快に感じる読者も多いのだろうが、僕にはこれ以上ない程クールな態度に思える。しかし、と同時にフロイトが陥った思弁の迷宮にさ迷い込む危険を常に孕んでいる感は否めないとも思う。本書を読む限り、そのことに進化心理学者は常に自覚的であろうとしているようではあるが。
一般読者にしてみれば、恋愛ハウツー本だと思って読んでみたら、それよりもっと面白い知的娯楽だったので一寸得したなってくらいのことで落ち着くのか、それともこんなケシカラン書物は焚書だと叫んで鼻息を荒げるのか・・・ どちらなのでしょうね。
因みに、芸術的な美にも進化心理学的な説明ができてしまいそうで、ちょっとコワい気もします。なぜモナリザが至高の芸術なのか。ああいった顔立ちや表情や構図などを見ると美しいと感じる方が生存にとって有利だったので、そのような心的反応パターンが自然選択によって生き残ってきたのだ・・・ こんな感じて価値のクオリアを正当化したらいかがでしょう、茂木先生。(勿論皮肉)
茂木健一郎 クオリア日記: 斎藤環 × 茂木健一郎